【はじめに】
ネット上では幾度となくトレーディングカードゲーム(以下:TCG)における代用カード(以下:プロキシ)についての議論がされているも、前提条件のずれや個人の思いが強く結論が見出しにくいと感じたため、個人的に調べて検討・整理を行いました。実務上、結論が出ていない論点があり、歯切れの悪い箇所もありますが今後のプロキシ談義の一助になれば幸いです。本稿を作成する際、ひらじさんの記事1)が非常に参考になりましたので、引用文献とさせて頂きつつこちらでお礼申し上げます。
本稿は友人の弁護士と弁理士にも相談しており、一般的な記事よりも込み入った話や詳細について語っている箇所がありますが、本稿の内容は法律的な判断結果を担保するものではなく、プロキシに対する日本国内における考え方のまとめ・整理だとお考え下さい。プロキシを使用する場合や交流会を主催する場合については読まれた方の責任で行って下さるようお願い致します。
(弁護士への相談費用は30分5000円程度であり、思ったよりも安価ですので、ご自分の行為について不安がある場合は弁護士に相談してみるのも良いでしょう。)

【目次】
・TCGとは?
・TCG業界におけるプロキシ
・プロキシに関する一般的な見解
・プロキシの何が問題になるのか?(著作権について)
・プロキシの何か問題になるのか?(著作権とは別の問題について)
・まとめ
・追記:模倣品について

【TCGとは?】
TCGは以下の様なものです。
「トレーディングカード(略称トレカ)として販売されている専用のカードを用いて行うカードゲームを言う。」(wikiから引用)

TCG概念の初出はMagic The Gatheringであり、このゲームは筆者も20年以上遊んでいます。他のTCGとしては遊戯王やポケモンカードゲームなどが有名だと思います。
強いカードが多ければ勝てるのかといえばそうではなく、良いバランスで紙の束(以下:デッキ)を構築する事で勝ちやすくなるというゲーム性になっています。

【TCG業界におけるプロキシ】
そんなTCG界隈で繰り返し争点として上がるのがプロキシの存在。
TCGにおけるプロキシについては以下の様に解説されています。
(筆者の意図に近いものを引用したので恣意的な引用となっていますがご容赦下さい。)
「実物のカードを持っていない場合に、代用品として使うカードのこと。」(ピクシブ百科から引用)
「個人で発売前のカードプールを試すなどのシミュレートを行う際に、正規のカードに代えて使用するダミーカードのこと。」(WIXOSS TCG WIKIから引用)

各々のTCG毎にカードの種類が多く、全てを必要数(ゲームによって同じカードを3枚又は4枚まで使えるゲームがほとんど)を揃えるのは現実的ではなく、また、中には絶版などの理由で1枚で数十万円を超えるカードもあるため、ゲームを行うだけであればプロキシでもTCGを楽しめます。
そんな状況下、プロキシを使う事の是非について、各カードゲームの業界やプレイヤー毎に賛否が語られているという前提があります。

【プロキシに関する一般的な見解】
プロキシについての一般的な見解として、筆者が見ている限りでは以下のタイプの考え方をお持ちの人が多いように思います。
見解1.プロキシの使用は一切認めない。
見解2.対戦前に確認を取り、相手が同意すれば使用できる。
見解3.個人的な対戦会や個人的な大会において、開催者がプロキシについて使用を認めているため、その会の中でプロキシが使用できる。
見解4.既に持っているカードを複数のデッキで流用する場合、入れ替えの時間短縮等のために持っているカードであればプロキシが使用できる。

というのが大まかな分類です。しかしながら、上記の見解は法的にはどのような理屈で主張されているか整理されていないため、以下でプロキシを使用する際の留意点や考え方を整理していきます。

【プロキシの何が問題になるのか?(著作権について)】
プロキシを使う際、多くのプレイヤーから声が上がり問題視されるのが著作権の問題ですので、まずはカードのプロキシを作る行為が著作権法上問題になるのか検討していきたいと思います。
そもそも、著作権法で保護されるためには下記の“著作物”である必要があり、著作権法上では下記の様に規定されています。
著作権法第2条1項1号
著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

※著作権法上の“著作物”の例示については10条も参考になります。

この“著作物”の定義は非常に重要であり、定義に合致しないものは著作権法上の保護対象とはなりません。相談した専門家全員の意見が一致した考え方として、「カード名のような文字列は著作物に該当しにくい(ほぼしない)。」「カード名から想起されるカードの“効果自体”は著作物に該当しない。」という2点はほぼ確定として考えて良いと思います。したがって、プロキシを使うカードと同じ厚さの紙や付箋にカード名だけを記載してプロキシとして使用する場合、著作権法的には全く問題がない事になります(文章として成立しそうな長いカード名の場合は著作物性が肯定される可能性があります。判例を参考にしてみて下さい。2))。
上記の様にカード名だけを記載したプロキシを使用するだけではあまりにもゲームとして味気なく、また、遊ぶ相手がカードの効果を十分に理解していない場合には迷惑をかける事になりますので、本項目の以降の内容では、カードの表面をコピーしてプロキシとして使用する行為について検討する事にします。
一般的にTCGのカードにはイラストなどが設けられ、カードのコストや効果が配置されており、カード全体としては間違いなく“著作物”であると認定出来ます。その前提があるとすれば、カードを複製する行為についての保護は以下の規定に言及があります。
著作権法第21条
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

※筆者注:ポンチ絵で書き写したポンチ絵も複製に該当します(2条1項15号)。
(JRRCのサイトが参考になります。3) 模写も有形的再製と判断して良いかと思います。)
21条は要するに、「原則として著作権者でない(各々のプレイヤー)はカードを複製出来ない。」というものです。この規定だけを読んだ場合には、プロキシ(複製)の作成は即座に不法行為になるように見えます。
しかしながら、著作権法では他人が権利を有する著作物を例外的に利用出来る場合が規定されており、カードをコピーしてプロキシを使う事に関連する項目となる“私的使用”は30条に規定されています。
著作権法第30条 
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

(※筆者注:条文中の「次に掲げる場合を除き」は無視して構いません。)4)
30条は「TCGのプロキシは私的使用の場合に限ればOKだよ」と読めます。
この規定の通り、30条の枠内では自由に使って良いという事になっています。
(ビデオテープに録画したドラマを家族で楽しむ場合が該当します。)

自分のデッキを構築する際、足りないカードをプロキシで代用し、一人でデッキの調整を行う事や家族でゲームを行う事自体は30条の適用の範囲となり、何ら問題ありません。
しかしながら、プロキシの使用は30条の要件下で認められる権利であるため、ゲームを行う相手を拡大したい場合、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」を逸脱するかを見極める必要があります。ここで言う“範囲”はあくまで使用する領域の話ではなく、使用方法や使用範囲によって判断される事項である点は注意が必要です。
この点の判断は非常に難しく、また、この内容を真っ向から争った裁判例もないため、範囲については当人たちの自己責任に任せるしかありません。(引用文献として昭和56年の著作権審議会での議論へのリンクを載せています5)。審議会では4-5人程度の研究範囲を超えるものについては規定の対象外と考えるとしていますが、調査が昭和56年という点と審議会の調査報告=法律の効果ではないという点には留意が必要で、未だに決着が出ていない論点です。:今後、考え方をまとめられたと思っていますので、裁判例や基準等をご存知の方はご教示下さい。)

【プロキシの何か問題になるのか?(著作権とは別の問題について)】
上記は著作権の観点から個人的にプロキシの利用が出来るかという話でしたが、もう一つの観点として、その場の管理者が課しているルールもクリアする必要があります。明確な根拠条文はないようですが、「占有している領域に対しては占有している者が管理するためのルールを設定出来る。」事が認められており、ゲームをする場所を提供してくれている人の意向に反する遊び方は行えません。(例を挙げるなら、飲食店が“飲食物の持ち込み禁止”を明文化している場合、その店には飲食物を持ち込む事が出来ない例が挙げられます。)

メーカーや店舗が開催する公式大会については、(通常は)メーカーから正規のカードを使う事が求められているのが前提となっているでしょうから、プロキシでは大会に参加出来ないのは明確です。※筆者はメーカーと店舗の契約書や取り極め内容については知りませんが、上記の前提は明文上か黙示かは別としてあると思っています。
この前提の場合、店舗が場所を提供して開催している大会と言え、メーカーの意向が反映された結果、大会を行う間はプロキシが禁止されるルールが制定される事になります。

上記とは少し事情が異なる場合として、店舗が貸し出しているデュエルスペース等はどう考えるべきでしょうか。この場合は店側が「当店でのスペース使用ではプロキシの使用をお断りします。」等と明記している場合には、その決定に従わざるを得ないでしょう。
個人でプロキシを使用できる権利があったとしても、使用する場所の管理者にNoと言われればそれまでで、その場所ではプロキシの使用が認められません。
(例としてはTCG barの業態をとっているお店で、プロキシが出てくると興ざめするので“当店ではプロキシ禁止”と課している様なお店が挙げられると思います。)

また、交流会の場合であれば、(場所を提供する店舗等がある場合は店舗と)管理権原がある主催者が“この交流会ではプロキシNG”と明言していれば、その交流会ではプロキシが使えない事となります(この話はあくまで管理者が課すルールの話をしているため、プロキシが認められる家庭内、それに準じた枠内については、主催者責任で幅を決めて頂く事になるのは前述の通りです。)。
プロキシへの言及がない交流会の場合、相手のデッキにプロキシが入っている事が禁止されておらず、また、相手がプロキシに対してどういった判断を持っているか明確でないため、ゲームの開始前に対戦相手に説明し、プロキシを使用して良いか確認するのが妥当なところでしょう。ゲームを行う人同士の取り極めについては法律云々の前にゲームの詳細を詰めるという意味で推奨されるかと思います(管理領域内での個別のルール決めの例として、雀荘内で許されているルールの範囲内で卓毎に採用するルールを確認してゲームを行うのに近いと思います。)。

【まとめ】
ここまで読んで頂ければ、根拠は各々異なりながらもプロキシを使う際には以下の①-③を順守する必要がある事がご理解いただけたかと思います。
①メーカーと店との取り極め
②場所の提供者、コミュニティ、対戦毎の相手との取り極め
③個々人のプロキシ使用が私的使用の範囲を超えない
(①についてはメーカーと店との取り極めが有効な時(公式大会等)に限る。)
――※筆者強く注――
この様に書くと、TCGメーカーやお店に確認してプロキシ使用の是非をつけたがる方がいるかと思いますが、プロキシや複製については各メーカーやお店毎に戦略を持ちながらルールを明文化していない場合もありますし、一ユーザーにそれを確かめる手段は乏しく、的確な質問になりにくく、聞かれた側も困ると思います。また、サポートへの問い合わせを伝聞系で伝えているユーザーも多くおりますが、その様なユーザーの話だけを鵜呑みして是非を論じる事は危険と感じます。
(プロキシカードを用いた戦略の一例として、Z/XやWIXOSSではHPで公開しているカードを印刷して公式大会で使用する事を認めています。新規参入者を増やす目的であれば、無料で使えるカードを用意し、そこをきっかけとして囲い込んでいく、というのも立派な戦略に思えます。)
【Z/Xについての印刷用カードリンク(2020.05.03確認)】
https://www.zxtcg.com/product/free.html
【WIXOSSについての印刷用カードリンク(2020.05.03確認)】
https://www.takaratomy.co.jp/products/wixoss/rule/rule_moviedl/
――※ここまで筆者強く注――


色々と書いてきましたが、プロキシに対して言われている上記の見解1.-4.は各々妥当性があると感じます。(3.については家庭的な使用の領域を超えない様に留意すべきは既に述べた通りです。)
これまでの議論では、著作権法上の複製権の議論、管理者側の権原、対戦時の取り極め(多くはマナーとされて既に議論されておりました。)が混然一体となっていたため、議論する際の主軸が定まらない事もあったのかと思います。今回の検討では、未解決の部分もありますが、上記の考え方に根拠毎にある程度の整理がつけられたと考えています。プロキシを使用する際に大切なのは、その対戦、対戦会、大会がどの立ち位置の会であるかを認識して、対戦相手及びTCGメーカー(+お店)に不利益の無いよう、確認と尊重を怠らないことだと考えます。

ネット上の意見では「自分はこの高額カードを買うために金を落としているのだから購入出来ない人は使ってほしくない。」という意見も見受けられますが、感情論が強く出た意見であると感じます(個人間での対戦時にプロキシの使用を否定する事自体は上述の通り至極真っ当な権利です。)。
そもそもメーカーがTCGのセットを販売する際、建前上はレアリティ毎に全カードが等しい価値として提供されているものです。その後、開封されたカードの価格が市場原理に則って上下しているのは仕方のない事ではありますが、中古市場が設定した価格の多寡を引き合いに出すのはおかしいと感じます。
TCGの概念の内、“TC”の部分を強く意識するなら、自分の持っているカードの中でデッキを組む美徳を感じる事も一理あると思いますが、TCGの概念の内、“CG"の部分を強く意識するなら、理論上許されているカードプールの中で最強のデッキを組む事を美徳に感じる事も受け入れられるべきでしょう。
法的な事から始まりお気持ちまで書いてきましたが、プロキシに対する考え方については自分が上記の“TC”要素、“CG”要素のどちらに重きを置き、TCGをしているかの意識を持つことが大切ではないでしょうか。
プロキシについて認めると、すぐさまTCGメーカーに対する冒涜という考え方を示す方もいらっしゃるかと思います。プロキシの使用を全く認めないのも、そのTCGを愛している一つの形だと思います。他方、一部のカードをプロキシで代用し、色々なタイプのゲームを楽しみたいという意見も同等レベルに尊重されるべき感情だと考えます。
以上。

【追記:模倣品について】
上記のプロキシの話はあくまで、“私的使用(自分がゲームを行うため)”という要件の下で複製が行われて初めて許容されているものです。
フリマアプリでは、『プロキシカードである事を前提として、』真正のカードに似せた偽物が販売されている場合がありますが、個人的に使用する目的でも違法となるため購入してはいけません。

販売した側は、著作権26条の2違反となり懲役刑や罰金刑となります。
また、TCGのロゴが商標登録されている場合には商標法違反となる場合もありますのでその点はプロキシの個人的使用と切り分けて考える必要がある点、ご注意下さい。
※下記は遊戯王の偽物の販売による逮捕報道リンク
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1028473

【引用リンク】
1.https://note.com/hirazi/n/nd9a8971ade1d (2020.05.03確認)

2. http://www.translan.com/jucc/precedent-2001-05-30b.html (2020.05.03確認)
→標語に著作物性が認められるか

3.https://jrrc.or.jp/educational/guide/outline/ (2020.05.03確認)
→複製権についての解説

4.https://jrrc.or.jp/chosakuken/2015/11/%E7%A7%81%E7%9A%84%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%A7%E3%81%AE%E8%A4%87%E5%86%99/ (2020.05.03確認)
→自動複製機器にはコピー機は入らない。

5. https://www.cric.or.jp/db/report/s56_6/s56_6_main.html (2020.05.03確認)
→S56の審議会の話。5-6人の研究範囲ならOKと“考えられる。”

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